殺せ殺せの大合唱?その2

産経新聞【主張】2006年07月05日(水曜日)付

http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

■【主張】女児殺害判決 極刑回避は釈然としない
 死刑か無期懲役かが注目された広島市木下あいりちゃん=当時小学1年=殺害事件で、広島地裁は死刑を回避する判決を言い渡した。

 父親はあえて娘の実名報道を望み、犯行の残虐性を訴え、ペルー人のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告の死刑判決を強く求めていたが、無期懲役だった。

 ヤギ被告は、下校途中のあいりちゃんにわいせつな行為をしたうえ、首を絞めて殺害、遺体を段ボール箱に入れて近くの空き地に放置した。まれに見る残虐極まりない犯行で、社会にも大きな衝撃を与えた。

 小学1年生が下校途中に殺害される事件は、その後も栃木県今市市(現日光市)で女児(未解決)が、また秋田県藤里町男児が被害にあうなど相次いでいる。それだけに検察側は、「子供の安全を脅かす重大犯罪には厳罰が必要」と死刑を求めていた。

 殺人事件で被害者が1人の場合、求刑が死刑でも無期懲役の判決が下されるケースが多い。しかし、検察は「この種の事件には、従来の判例基準を形式的に当てはめるべきではない」と極刑相当と主張した。

 今回の犯行に対しては、被害者や遺族の感情、社会に与えた影響を考慮すれば、極刑が言い渡されても不思議ではなかった。広島地裁も、ヤギ被告には「確定的殺意や、わいせつ目的があった」と検察側主張を全面的に認め、「卑劣かつ冷酷というほかない犯行だ」と断罪して、強く非難した。

 しかし、「被害者が単数で、衝動的な犯行であり、前科もなく、矯正不可能とまでは言えない」と死刑を避けた理由を述べた。やはり、被害者が1人であるという点が裁判所に死刑判決を躊躇(ちゅうちょ)させたようだ。

 今回の判決は被害者の両親や遺族にとっては何ともやり切れない無情な判決と映ったことだろう。被告は矯正可能とされたが、少年ではない。国民はもっと被害者側に配慮した判決を期待していたのではないだろうか。

 凶悪犯罪が多発する折、国民の間には性犯罪や弱い子供をねらった犯行には、厳罰化を求める傾向が強まっている。今回の判決は、3年後に導入される「裁判員制度」のもとでは、どうなったことだろう。検察が控訴し、広島高裁の判断が出るのを待ちたい。